最近、InstagramのリールやTikTokを眺めていると、「AIに指示するだけで月収〇〇万円」「1日30分のコピペ作業で自由な生活を」といった広告を目にする機会が急に増えたと感じませんか?
そのきらびやかなライフスタイルと、誰にでもできそうな手軽さのアピールに、一瞬心が揺らぐかもしれません。しかし同時に、「本当にそんなうまい話があるのだろうか?」という冷静な疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、その直感は非常に的確です。今回は、この「AIで稼げる」という謳い文句の裏側にある構造と、過去から繰り返されてきた類似の事例、そして私たちが注意すべきポイントについて、少し掘り下げてみたいと思います。
過去にも繰り返された「稼げる」の流行
実は、こうした「新しい技術で簡単に稼げる」という話は、今に始まったことではありません。テクノロジーが進化するたびに、同じようなパターンが繰り返されてきました。
- 2010年代前半:「秒速で稼ぐ」ネオヒルズ族 FXや株式投資、アフィリエイトをテーマに、「秒速で1億稼ぐ」といった過激なキャッチフレーズで登場したのが「ネオヒルズ族」です 。彼らは高級車やタワーマンションでの暮らしをSNSで見せつけ、多くの若者の憧れを集めました 。その手法は「プロダクトローンチ」と呼ばれ、動画などで期待感を極限まで煽り、期間限定で高額な情報商材を販売するものでした 。
- 2010年代後半:「理想のライフスタイル」を売るキラキラ起業女子 次に現れたのが、Instagramなどを中心に活動する「キラキラ起業女子」です 。彼女たちは、カフェでのノマドワークや高級ホテルでのアフタヌーンティーといった「理想のライフスタイル」を投稿し、共感をベースにファンを集めます 。そして、その秘訣として自己ブランディング講座やSNS集客セミナーといった、自己啓発系のサービスを販売するのです 。
これらの事例に共通しているのは何でしょうか?
「AIで稼げる」と広めるのが、彼らの「稼ぐ方法」
もうお気づきかもしれませんが、これらのビジネスモデルの核心は、**「『稼ぐ方法』を教えること自体で、収益を上げている」**という点にあります。
実際に地道な作業で稼ぐよりも、「誰でも簡単に稼げる方法」という”情報”をパッケージ化して販売する方が、遥かに効率的に、そして大きな利益を生み出しやすいのです 。
現在流行している「AIで稼げる」という広告も、この構造と全く同じです。AIを使ってコンテンツを制作して収益を上げるのではなく、「AIで稼ぐ方法を教えます」と喧伝することそのものが、彼らのビジネスモデルなのです。
要注意!情報商材に共通する「4つの手口」
こうした情報商材の販売には、消費者の心理を巧みに利用した共通の手法が見られます。
- 具体的なビジネスモデルを隠す 「AIに指示を出すだけ」「コピペするだけ」と作業の簡単さを強調しますが、具体的に「何を」「どこで」「どのように」収益化するのかという、ビジネスの根幹部分は曖昧にされます 。購入するまで、その核心はわかりません。
- 成功者のライフスタイルを過剰に演出する 収入の実績そのものよりも、高級品や海外旅行といった「成功した結果得られるライフスタイル」を前面に押し出します 。これは、あなたに「こうなりたい」という強い憧れを抱かせ、冷静な判断を鈍らせるための演出です。
- 限定性と緊急性を煽り、決断を急がせる 「〇日間限定」「今だけの特別価格」「限定〇名様」といった言葉で、希少価値を演出し、「今すぐ行動しないと損をする」という焦りを生み出します 。これはプロダクトローンチで多用される心理テクニックです 。
- 最終的に高額な契約へ誘導する 無料の資料請求やLINE登録は、あくまで見込み客リストを集めるための入り口(フロントエンド)です 。その後、無料セミナーや個別相談に誘導され、最終的には数十万円から百万円以上する高額なコンサルティング契約やコミュニティ(バックエンド商品)への加入を勧められるケースが非常に多いです 。
騙されないために。最低限知っておきたい3つのポイント
では、私たちはどのように自衛すればよいのでしょうか。最低限、以下の3点は確認するようにしましょう。
- 特定商取引法1の表記を確認する インターネットで商品を販売する場合、事業者は氏名(法人なら登記名)、住所、電話番号などを明記する義務があります(特定商取引法)。この表記がなかったり、曖昧だったりする時点で、その広告主は信頼に値しません。
- 「誰でも」「必ず」は誇大広告を疑う 特定商取引法では、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良であると誤認させるような表示」(誇大広告)は禁止されています 。再現性の低いノウハウを「誰でも稼げる」と謳うのは、この誇大広告に該当する可能性が高いです 。
- クーリング・オフは原則「適用外」2と心得る 意外と知られていませんが、インターネット通販は、消費者が自らの意思で申し込むため、原則としてクーリング・オフ制度の対象外です 。一度契約してしまえば、法律を盾にした無条件解約はできないと覚えておきましょう。
それでも、AI自体は非常に便利なツールである
ここまで情報商材への注意喚起をしてきましたが、誤解しないでいただきたいのは、AIという技術そのものは、決して怪しいものではないということです。むしろ、正しく使えば私たちの仕事や創造性を飛躍的に高めてくれる、非常に強力なツールです。
実際に、AIは文章の要約やアイデア出し、翻訳、簡単なプログラミングコードの生成など、様々な場面で活用できます。初心者でも比較的簡単に、質の高いコンテンツを生み出す手助けをしてくれるのは事実です 。
ただし、そこにも注意点はあります。AIが生成する情報には、事実に基づかない「もっともらしい嘘(ハルシネーション)」が含まれていたり 、学習データに起因する偏った情報(バイアス)が出力されたりすることがあります 。また、他者の著作物を意図せず模倣してしまい、著作権侵害につながるリスクもゼロではありません 。
AIはあくまで「優秀なアシスタント」。そのアウトプットを鵜呑みにせず、最終的なファクトチェックや編集、そして責任は、私たち人間が負う必要があるのです。
おわりに
何を隠そう、この記事も、構成案の整理や関連情報の収集といったプロセスで、AIの助けを借りて執筆しています。
AIは、魔法の打ち出の小槌ではありません。しかし、賢く付き合えば、私たちの能力を拡張してくれる頼もしいパートナーになります。
SNSで「AIで稼ぐ」という甘い言葉を見かけたときは、一度立ち止まって、その裏にあるビジネスモデルに思いを馳せてみてください。技術そのものに罪はありません。大切なのは、私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、その情報を批判的に吟味するリテラシーを身につけることではないでしょうか。
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