― 効率化と合意形成は別物だった ―

便利になったのに、何かが足りない
Teamsをはじめとするオンラインツールが普及して、仕事のやり方は大きく変わりました。
- 情報共有は高速化
- 会議は短時間化
- 記録はしっかり残る
これだけ聞くと良いことずくめなんですが、現場では妙な違和感が生まれているんです。
実際、労働政策研究・研修機構(JILPT)がまとめた調査によると、テレワーク実施者の課題として「社内のコミュニケーションに支障がある」が47.6%で最多という結果が出ています。また、労務SEARCHの2024年調査でも約3割がコミュニケーション不足を感じていると報告されています。
| 観点 | 現状 |
|---|---|
| 理解 | できている |
| 納得感 | 足りない |
| 合意形成 | 表面的 |
| 信頼 | 蓄積しにくい |
「分かる」と「腹落ちする」は別物。ここがマネジメントの出発点なんですよね。
「毎日5分配信」は万能か?
上司による「毎日5分のTeams配信」という施策を見かけることがあります。この施策、評価を分解すると以下のようになります。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 方針の方向付け | 合意形成 |
| 優先順位の共有 | 納得感の醸成 |
| 温度感の伝達(限定的) | 個別の引っかかり解消 |
結論:5分配信は「情報整理」には有効ですが、「合意形成」の代替にはなりません。
さらに問題があります。
- 抽象化が苦手な人
- 言語化が得意でない人
が無理にやると、ただの「独り言配信」になってしまいがちなんです。
外的要因と内的要因 ― 話がズレる理由
「事故が起きたら内的要因を高めよう」という説明に違和感を覚えたことはありませんか?
本来の正しい順序はこうです:
外的要因(環境・制約)
↓ 分析
内的要因(判断・行動)
↓ 改善
結果
外的要因を飛ばして内的要因だけを強調すると、
- 精神論に見える
- 現場の納得を失う
- 怒りが静かに蓄積する
内的要因の強化は、外的要因の分析が前提条件なんです。
なぜ上司は損をしやすいのか
短期的には楽でも、中長期ではリスクが高い行動パターンがあります。
| フェーズ | 起きること |
|---|---|
| 初期 | 前向きに見える |
| 中期 | 違和感を持つ人が出る |
| 後期 | 本音が出なくなる |
上司が一番失うのは、「本音で話してもらえる立場」です。
1on1万能論の落とし穴
会社が求める1on1と、現場が本当に必要としているものはズレがちです。
| 会社の期待 | 現場の実需 |
|---|---|
| キャリア・メンタル | 方針への納得 |
| 個人最適 | 制約のすり合わせ |
リクルートマネジメントソリューションズの調査(2022年)によると、1on1を導入している企業は約7割に達しています。効果として「上司と部下の関係性が良くなった」が40.9%と一定の成果は出ています。
しかし一方で、パーソル総合研究所の調査(2025年)では課題も明らかになっています。
| 課題 | 上司 | 部下 |
|---|---|---|
| 面談について学ぶ仕組みがない | 35.4% | 28.3% |
| 面談の効果が感じられない | 27.6% | 29.7% |
部下の約3割が「効果を感じられない」と回答しているのは見過ごせない数字です。
1on1は万能ではありません。合意形成は1on1ではなく「対話」で行うものなんです。
対面はコストではなく「資源」
効率化=対面削減、ではありません。対面は「レア資源」として、必要なところにだけ配置するものです。

上智大学の杉谷陽子教授(リクルートマネジメントソリューションズ掲載)は、対面とオンラインの違いについて重要な指摘をしています。
社会心理学では、信頼は相手の「能力」への信頼と「誠実な意図」への信頼からなるといわれてきました。この「誠実な意図への信頼」を確かめるには、表情・しぐさなどの非言語的な手がかりが重要になりますから、対面の方がオンラインよりも優位性があるでしょう。
また、ビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏は、コミュニケーション研究の知見として「対面は合意形成に向き、オンラインはアイデアの発散に向く」と整理しています。
つまり、使い分けが重要なんです。
| 領域 | 最適手段 | 理由 |
|---|---|---|
| 方針初出 | 対面 | 誠実な意図への信頼が必要 |
| 制約説明 | 対面 | 納得感の醸成が必要 |
| 優先順位変更 | 対面 | 合意形成が必要 |
| 定型報告 | Teams | 情報伝達で十分 |
| 進捗共有 | Teams | 情報伝達で十分 |
| アイデア出し | Teams/オンライン | 発散に向いている |
マネジメントで陥りがちな罠
よくある落とし穴を整理しました。
| 罠 | 内容 |
|---|---|
| 分かっている前提 | 前提共有不足 |
| 内的要因偏重 | 精神論化 |
| 1on1万能 | 目的混在 |
| いい人過ぎる | 判断遅延 |
| 情報過多 | 行動が変わらない |
| 代表者依存 | 緩衝材が消耗 |
| 自分がやった方が早い | 長期的に詰む |
アドバイスしないという選択
最終的に行き着いた結論があります。
- 求められていないアドバイスはノイズ
- 思考を止めてしまう
- 責任を取らない助言は害
アドバイスしてもいい例外条件はかなり厳しいです。
| 例外条件 |
|---|
| 求められている |
| 失敗コストが大きい |
| 選択肢を残す形で伝える |
| 責任を共有する |
満たせないなら、黙るのが最適解。
「フォロー」止まりが一番強い
コーチングは不要。シンプルに「フォロー」だけで十分なんです。
| フォローする | しない |
|---|---|
| 詰まりの察知 | 解法提示 |
| 誤解の緩和 | 判断代行 |
| 視点の共有 | 正解の押し付け |
気づいた時に、短く。 これだけでいいんです。
いいマネジメント像
良いマネージャーに共通していることは、
- 口数が少ない
- 介入が遅い
- 責任だけは引き取る
- アドバイスしない
「何を言うか」より、「何を言わないか」。
まとめ
最後に、この記事のポイントを整理しておきます。
- Teamsは便利だが万能ではない(テレワーク実施者の約半数がコミュニケーションに課題を感じている)
- 合意形成にはコミュニケーションコストが必要(「誠実な意図への信頼」は対面が優位)
- 外的要因分析なき内的要因強化は逆効果
- 対面は減らすものではなく配置するもの
- 1on1は万能ではない(部下の約3割が効果を感じていない)
- アドバイスしないのは成熟した判断
オンラインツールの時代だからこそ、「何を対面でやるか」の選択が問われているんですね。
参考文献・出典
調査・研究
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「テレワークの現状:ビジネス・レーバー・トレンド 2024年12月号」
- 労務SEARCH「【2024年】テレワーク実施企業の現状調査」
- リクルートマネジメントソリューションズ「1on1ミーティング導入の実態調査」(2022年4月公開、2024年3月更新)
- パーソル総合研究所「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」(2025年)

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