アドバイスしてはいけない──管理職が「助言」をやめるべき科学的根拠と実践法

do not advise

部下が困っているのが見える。もっと良いやり方を知っている。つい口を出したくなる。

──その「良かれと思った助言」が、部下のやる気と自走力を奪っていたとしたら?

この記事では、求められていないアドバイスがなぜ逆効果になるのかを心理学の知見と実体験をもとに整理し、助言の代わりに管理職が取るべき具体的行動を解説します。

私自身、かつては良かれと思って助言し、指導し、改善案を出し続ける上司でした。しかし長年現場に立ち続けて一つの結論に辿り着きました。

求められていないアドバイスは、ほぼ例外なく逆効果になる。


目次

当事者は、すでに考えている

まず大前提として、現場の人は何も考えていないわけではありません。

業務の優先順位、患者対応、処方の重なり、人員不足──様々な制約条件の中で、最適解を探しながら動いています。

外から見ると「もっとこうすればいいのに」と思えることでも、

それが出来るなら、もうやっている。

というケースがほとんどです。

アドラー心理学を専門とする心理カウンセラーの小倉広氏も、アドバイスについて「いくら正しいことを言われたとしても、本心では受け入れられない」と指摘しています(ミーツキャリアbyマイナビ転職)。当事者が既に検討済みの内容を外から伝えても、「浅い」「わかっていない」と受け取られるだけです。

外部の助言は、往々にして現場制約を無視した理想論になりがちです。このズレが、まず最初の摩擦を生みます。


求められていない助言は「反発」を引き起こす

この現象は、心理学では**心理的リアクタンス(Psychological Reactance)**として研究されています。

1966年にジャック・ブレーム(Jack Brehm)が提唱したこの理論は、人は自分の選択の自由が脅かされたと感じると、その脅威に対して反発する心理状態が生まれることを示しています。

コロンビア大学のFitzsimons & Lehmann(2004)の研究では、求められていないアドバイスが相手の初期判断と食い違う場合、受け手はアドバイスを無視するだけでなく、意図的に逆の行動を取ることが実証されました(Marketing Science, Vol.23)。

つまり「こうした方がいいよ」と言うほど、相手は「じゃあ逆をやる」という反応になりかねないのです。

アドラー心理学の観点では、コミュニケーションには常に「優越」と「劣等」の関係があるとされ、アドバイスはする側が「優越」、される側が「劣等」の地位に立つ構造を持っています。相手に尊敬されていない限り、この構造は反発を生むだけです。


アドバイスは責任を取らない

もう一つの問題は「責任の非対称性」です。

アドバイスをする側はノーリスクです。しかし実行する側は違います。失敗したら評価が下がり、クレーム対応も自分、業務負荷も自分が背負います。

つまり、言う側は安全圏、やる側は最前線

この構造がある以上、助言は簡単に信頼を得られません。むしろ「無責任なことを言われた」と受け取られることすらあります。


「自分で決めたい」欲求を奪ってしまう

人は、自分で考えて納得したことしか本気で動きません。

心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した**自己決定理論(Self-Determination Theory)**では、人間には「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的心理欲求があり、これらが満たされることで内発的動機づけが高まるとされています(日本の人事部)。

特に重要なのが「自律性」です。自分自身の意志によって行動したいという欲求であり、これが満たされないと内発的動機づけは低下します。

助言を先回りしてしまうと、まさにこの「自律性」を奪います。

本来の流れはこうです。

自力思考 → 納得 → 行動 → 成長

ここに外部助言が早期介入すると、反発する依存するかのどちらかになります。

デシの研究では、外的な指示や圧力は内発的動機づけを低下させる「アンダーマイニング効果」を引き起こすことも明らかにされています。上司からの押し付けられた目標や指示がモチベーションを下げるメカニズムは、この理論によって説明できます。

どちらの場合も、自走力は育ちません。


助言型上司が組織を弱くする

助言を繰り返すと、組織には次の変化が起きます。

  • 指示待ちが増える
  • 判断停止が起きる
  • 失敗回避思考になる
  • 責任転嫁が始まる

現場でよく聞く言葉があります。

「どうしたらいいですか?」

一見相談に見えますが、実態は判断放棄です。

G.S.ブレインズコンサルティングの鈴木氏も、「部下のためを想ってアドバイスや助言をすると逆効果になる」ケースとして、共感を求めているだけの部下や、自分でもっと考えたい部下に対する上司の早すぎる介入を挙げています(G.S.ブレインズグループ)。

助言が多い組織ほど、判断放棄の言葉が増えます。


では上司は何をするのか

ここで誤解されがちですが、「何もしない」という意味ではありません。役割が違うだけです。

私の中での整理はこうです。

観察 → 共感 → 支援 → 最後に助言

助言は最終手段です。

この考え方は「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるリーダーシップ理論と重なります。1970年にロバート・K・グリーンリーフが提唱したこの理論は、「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という支援型リーダーシップの考え方です(Schoo)。

資生堂の元社長・池田守男氏は、このサーバントリーダーシップを実践し、従来のピラミッド型組織を「逆三角形」に転換。現場の販売員を最も重要な存在として位置づけ、経営層が支援役に回る体制を構築しました。結果として、経営の立て直しに成功しています(1on1総研)。

指示型ではなく支援型の関わりを通じて、部下の自信と能力を引き出す。これが現代のリーダーに求められる姿勢です。


私がやっている「助言しない」具体行動

助言の代わりに何をしているか。例えば──

  • クレーム対応を前面に立って受ける
  • 難患者の一次対応を担う
  • 業務負荷を吸収する
  • シフトを調整する
  • 情報を整理して渡す

つまり、行動で支える。口で導かない。

環境を整えれば、人は自分で最適化します。自己決定理論が示す通り、自律性・有能感・関係性が満たされる環境があれば、人は内発的に動機づけられ、自ら成長していきます。


それでも助言する例外

もちろん完全にゼロではありません。介入ラインは決めています。

  • 法令違反リスク
  • 医療安全リスク
  • 重大クレーム予兆
  • 取り返しのつかない損失

判断基準はシンプルです。

放置コスト > 介入コスト

この時だけ助言します。

カール・ロジャーズが提唱した「傾聴に必要な3つの条件」──共感的理解、無条件の肯定的関心、自己一致──を日頃から実践し、信頼関係の土台が築かれている状態であれば、必要な場面での助言は届きます。

助言が機能するのは、信頼関係がある場合だけです。


助言をやめて起きた変化

助言を減らす前の現場はこうでした。

あるスタッフが業務の進め方で悩んでいたとき、私はすぐに「こうした方がいい」と改善案を出していました。結果、そのスタッフは次に似た場面が来るたびに「どうすればいいですか?」と聞きに来るようになりました。判断を私に預ける癖がついてしまったのです。

ある時から、同じような場面で「答え」を渡すのをやめました。ただし、いきなり放置するわけではありません。

実際にやったのは選択肢を渡して本人に選ばせることです。具体的には3つくらいの選択肢を提示して、「自分だったらこうするけど、○○さんならどうする?」と聞く。答えを一つに絞って渡すのではなく、判断の材料だけ揃えて、最終決定は本人に委ねる形です。

最初の数週間は戸惑いも見えました。しかし1ヶ月ほど経つと変化が出ました。自分で考えた上で「こうしようと思うんですが」と相談に来るようになったのです。判断放棄の「どうすればいいですか?」が、意思を持った「こうしたい」に変わりました。

この経験以降、意識的に助言を減らした結果、現場全体でも変化が広がりました。

  • 自主改善が増えた
  • スタッフ同士の相談が増えた
  • 判断スピードが上がった
  • 責任感が強くなった

上司が口を出さないほど、組織は強くなります。


まとめ

振り返ってみると結論はシンプルです。

  • 当事者はすでに考えている
  • 求められていない助言は反発(心理的リアクタンス)を引き起こす
  • 助言は責任を取らない
  • 「自分で決めたい」欲求(自律性)を奪う
  • 組織の自走力を下げる

だからこそ、求められないアドバイスはしない。


最後に

上司の仕事は助言ではなく支援です。

口を出すより、背中を持つ。導くより、任せる。

任せて、支える。

その方が組織はうまく回ります。


参考文献・出典一覧

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次